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2015.12.27 (Sun)

俺が足はイレのナゴーに

サルバドールに手を出すぞー!


クリスマスが終わりまして、年末でござんすね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

どうでも良いですが、いま、これを書いているドトールでは隣でカップルがモンハンXに興じています。

今までリオやミナス・ジェライスなど、ブラジルの中東部をメインに訳してきた拙なまくらにとうりゅうですが、今回は北東部の代表的な街、旧都サルバドールの楽曲に挑んでみようかと思います。

前回書いた、アケーリ・アブラッソの作曲者ジルベルト・ジルもここの出身。

今回の曲はイレー・ペーロラ・ネーグラ (オ・カント・ド・ネーグロ) / Ilê Pérola Negra (O Canto do Negro)

歌うのはダニエラ・メルクリ / Daniela Mercury

「水星のダニエラ」

カッコいいっすね。

これは芸名ですが、本名もダニエラ・メルクリー・ダ・アウメイダ / Daniela Mercuri de Almeida と言うそうで、無理やり訳すなら"アルメイダ市の水星たるダニエラ"でしょうか。

収録は2000年発売のソウ・ダ・リベルダージ / O Sol da Liberdade (自由の太陽) 。



ところで、曲名になんでカッコつきの文言があるのかなと思ったら、

"O Canto do Negro(黒人の歌)" と

"Pérola Negra(黒真珠)"

って二つの曲を合わせた歌なんですって。
https://pt.m.wikipedia.org/wiki/Ilê_Pérola_Negra_(O_Canto_do_Negro)

サルバドールで最も古いブロコ・アフロ、イレ・アイェ / Ilê Aiyê をうたう歌、音源はこちらです。




では、本題!
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O canto do negro veio lá do alto
É belo como a íris dos olhos de Deus, de Deus
E no repique, no batuque, no choque do aço
Eu quero penetrar no laço afro que é meu, e seu

黒人の歌は高みから聞こえる
それは神の、神の虹彩のように美しい
ヘピーキに、バトゥーキに、鋼太鼓の衝撃に
私は黒の絆を追いたいと思う。
私の、そしてあなたの絆を

Vem cantar meu povo, vem cantar você
Bate os pés no chão moçada
E diz que é do ilê a yê

みんな、歌いに来て。歌いに来て、あなた。
若者たちよ、地面を踏み鳴らして。
イレ・アイェの者だと歌って

Lá vem a negrada que faz o astral da avenida
Mas que coisa tão linda, quando ela passa me faz chorar

道を来る黒人たちが、道路に霊感をたちあげて
ほんとうに、なんて美しいのか。
彼らが通り過ぎれば、涙こぼれる

Lá vem a negrada que faz o astral da avenida
Mas que coisa tão linda, quando ela passa me faz chorar

道を来る黒人たちが、道路に霊感をたちあげて
ほんとうに、なんて美しいのか。
彼らが通り過ぎれば、涙こぼれる

Tú és o mais belo dos belos, traz paz, riqueza
Tens o brilho tão forte por isso te chamo de pérola negra (bis)

お前は美者のなかの美
平穏を、豊さをくれる
その輝きはとても強くて
こう呼ばずにはいられない
黒き真珠よ

Êêê, pérola negra
Pérola negra ilê ayê
Minha pérola negra (bis)

ああ、黒い真珠
黒真珠、イレ、アイェよ
私の黒真珠よ

Lá vem a negrada que faz o astral da avenida
Mas que coisa tão linda, quando ela passa me faz chorar (bis)

道を来る黒人たちが、道路に霊感をたち上げる
ほんとうに、なんて美しいのか
彼らが通り過ぎれば、涙こぼれる

Tú és o mais belo dos belos, traz paz, riqueza
Tens o brilho tão forte por isso te chamo de pérola negra

お前は美者のなかの美
平穏を、豊さをくれる
その輝きはとても強くて
こう呼ばずにはいられない
黒き真珠よ

Com sutileza cantando e encantando a nação
Batendo bem forte cada coração
Fazendo subir a minha adrenalina

繊細に祖国を歌い魅了する
それぞれの心臓が強く打てば
私のアドレナリンもほとばしる

Como dizia Buziga
É de mim
Em me pé nagô de ilê
É de mim
Em me pé nagô de ilê ayê

ブジーガは言っていたね
俺が足はイレのナゴーに
俺が足はイレ・アイェのナゴーに

Êêê, pérola negra
Pérola negra ilê a yê
Minha pérola negra

ああ、黒い真珠
黒真珠、イレ、アイェよ
私の黒真珠よ


---------------------------
訳注

íris dos olhos
イーリス・ドス・オーリョス
目の虹彩の事です。シンプルに「瞳」としても良かったんですが、「虹」を意味するイーリスが入っていたため、ちょっと虹感を出したくて「虹彩」としました。

ところで、虹は虫に工と書きますが、これは甲虫の背に光が当たった色と、虹の色が似ているから、かもしれません。

あなたはそろそろ「虹」と言う字がゲシュタルト崩壊している、かもしれません。

no repique, no batuque, no choque do aço
Repique / ヘピーキ
Batuque / バトゥーキ

ヘピーキ、バトゥーキ、共に頻出単語ですね。リオのサンバで使用されるヘピーキとサルバドールの、例えばイレ・アイェでのヘピーキは共通点もありますが、だいぶ印象が違います。

リオのヘピーキ(グランジ・リオ)



サルバドールのヘピーキ(イレ・アイェ)

https://youtu.be/boWTRqdnIY4



ちなみに、イレ・アイェが始まった頃は木製のスティックと手で叩いていましたが、現在はナイロン製のスティック二本で演奏されることが多いって上の動画で言ってました。勉強になりました。

さらにちなみに、ヘピーキ / Repiqueは、"打ち鳴らす"という意味のポルトガル語、Repicar / ヘピカーからの派生語です。

なるほど、たくさん打ち鳴らしてますわね。


Choque do aço
ショッキ・ド・アソ
分解すると
Choque = ショック
do = of the
aço = 鋼
となるんですが、

"鋼の衝撃"って、どういう事だろうか。

最初の解釈
エレキギターのスチール弦

サルバドールのカーニバルの特徴として、トリオ・エレトリコという車両がありまして。

ざっくりいうと、ライブハウスやクラブのステージと音響システムを電飾トラックに丸ごとのっけて、そこでミュージシャンやらDJやらが演奏しつつ、街を回るためのものです。








で、おもに使われる弦楽器がエレキギターなんですよ。ダニエラの曲にもエレキギターが沢山使われています。

その印象があったので、最初 "鉄弦の衝撃"としてました。

没理由
イレ・アイェはエレキギターを使わない。


次の解釈
ビリンバウの弦
ビリンバウは、サルバドール名物カポエイラで使われる弓状の楽器で、弦の部分が鋼なので、それかと。

没理由
アフロ文化繋がりだけど、いくら何でも唐突に感じた。

次の解釈
太鼓の素材
イレ・アイェで使用される楽器の胴がスチール製なので、これの事かと。
チンバウ(両手で叩く長細い太鼓)だけは木製の胴なんですが、この解釈が一番腑に落ちたので採用しました。

アルミ胴じゃないよね・・・?

「スチール太鼓」とするとなんだかバランスが悪い気がしたもんで、鋼太鼓(はがねだいこ)と造語しました。

考えてみれば、金属胴の太鼓って意外と珍しい気がします。

太鼓の素材について調べていたら、世界の太鼓資料館なる施設が浅草にあるそうなので、ちょっと行ってみたい。


繊細に祖国を歌い魅了する
対応する歌詞は
"cantando e encantando a nação"

cantando (歌っている)も
encantando(魅了している)も

nação(国)にかかるんですが、歌の方はアフリカの祖国を歌い、魅了する方はブラジル連邦共和国を魅了する、という二重の使い方なのではないかと思います。

Buziga
ブジーガ。
イレ・アイェに数多くの曲を提供した偉大なバイーアの作曲家の名前だそうです。


イレ・アイェ / Ilê Ayê.
Ilê  イレ はヨルバ語で、家。
Ayê アイェも同じくヨルバ語ですが、文脈によって、空だったり大地だったり命だったりするそうです。空にして大地にして命なんて、世界そのものじゃないか、とおもったら、世界って意味もあるそうです。

参考にしたのはこちら(ポルトガル語)。超参考にした。
http://diversidadeintegrada.blogspot.jp/2010/06/ile-perola-negra-canto-do-negro-cultura.html?m=1

ヨルバ語起源の単語は、発音に対してあとから綴りが当てられているので、歌詞中では"Ilê Ayê"となっていますが、サルバドールの音楽集団のイレ・アイェは、Ilê Aiyêと綴ります。

さらに、サンバのABCのCを受け持つ女性歌手クララ・ヌネス / Clara Nunesに、アフリカを想う黒人を描いたIlu Ayê / イル・アイェという歌があるんですが、これも同じ意味です。たぶんね。


Em me pé nagô de ilê
上述のブジーガの言葉として歌われていますが、正規の文法を無視した口語なので鬼のように難しいです。

Em me / エン ミ
これが、Em mim(私の中)なのか、em meu (私の○○の中に)なのかでいきなり悩ましい。

pé / ペ
足。名詞の意味はそんなにブレないので、多分"足"で合ってると思う。

nagô / ナゴーは、もともど"ヨルバ語を話す奴隷"を指す語です。名詞なのか、形容詞にもなるのか、どっちだ・・・!

Em me / pé nagô / de ilê

なのか

Em me pé / nagô de ilê

なのか!

さらに解釈すると

pé = 足 = 出自
ilê = 家 = 故郷
nagô = 故郷から遠く離れた場所で出会った、同じ言葉(ヨルバ語)を知る仲間

訛り懐かし停車場に、っていうのとはちょっと違いますが、

「俺は本来の故郷から遠く離れた所に連れて来られた者の子孫だけど、イレ(アイェ)のナゴーたちの中が第二の故郷だよ」

って事なんじゃないかと思います。

で、悩んだ末の訳語が「俺が足はイレのナゴーに」となりました。


その他、参考資料
http://www.dicionariompb.com.br/bloco-afro-ile-aiye/dados-artisticos

Ilê-Aiyê significa, em dialeto afro, "O mundo" ou "A Terra da Vida" ou ainda "Festa do ano-novo", referência à festa profano-religiosa que os negros sudaneses realizavam na Bahia.





資料(PDF)
(ごくごく一部しか読めてないっす)
https://www.google.co.jp/url?sa=t&source=web&rct=j&url=http://books.scielo.org/id/p5/pdf/lucchesi-9788523208752.pdf&ved=0ahUKEwiZ4OuAstjJAhVBRZQKHec6CoAQFggZMAA&usg=AFQjCNFsTlrFbRMWiIwvm2aMeeV163BJJQ&sig2=cRHAzKbqevcdWm3oichHFg


書き出しの「サルバドールに手を出すぞー」というのは半分ノリで書いたんですが、書き終えてみると、かなり適切な気合いの入れ具合だったことがわかりました。

イレと入れを掛けてないからな!


翻訳シリーズもこれが37本目、今年だけで32本書いたみたいです。がんばったがんばった。


みなさま本年もお世話になりました。


このシリーズは来年も続けて行く所存ですので、なにとぞ暖かな応援、リクエスト、リツイート、いいね、シェアなどよろしくお願いいたします。






ぺこ
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